病める時も健やかなる時も、共に人生を歩まんと一緒になったものの、さまざまな事情から離婚に至ってしまうケースはけして少なくはありません。
離婚の理由として一般的なものとしては性格の不一致や夫婦どちらかの不倫、双方の親族との関係などが挙げられますが、実はセックスレスも離婚の大きな理由のひとつであると言われています。
デリケートな問題であるためなかなか経験者の声を聞きにくい側面もあるセックスレスによる離婚ですが、慰謝料や財産分与の面で他の離婚理由とは違ってくる部分はあるものなのでしょうか?
今回はセックスレスを理由に離婚を考えている人向けに上記の疑問について解説していきたいと思います。
そもそもセックスレスの定義とは?
そもそも、セックスレスとはどの程度の頻度で性行為が行われていない状態を表すものなのでしょうか。
日本性科学会が1994年に定義した内容によると、
「特殊な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシャル・コンタクトが一ヶ月以上なく、その後も長期にわたることが予想される場合」
をセックスレスの状態、とするようです。
ですので、月に1回程度セックス している状態ではセックスレスとはいえないようです。
また、一度や二度程度セックスを拒んだことがあったからと言って、それが即離婚を考える要因となる、というケースもほとんどないようです。
もちろん、夫婦関係を続けていくためにセックスが必要不可欠であるということはないでしょう。
どちらもがセックス に重きを置いておらず、セックスライフがほとんどない状態でも良好な関係を続けている夫婦も一定数います。
むしろセックスレスを理由に離婚を考える場合、片方が望んでいるのにもう一方が拒むことが多いなど、セックスに関する価値観の相違が原因となるケースが多いようです。
セックスレスは結婚生活を維持し難い重大な事由となるのか?
民法770条の中には、夫婦が離婚を求めて裁判を起こすことができる条件についての記載があります。
そしてこの民法770条1項5号には「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」という定めが記載されています。
「婚姻を継続し難い重大な事由」というのは、その問題があるために夫婦関係が破綻してしまうような重大事のことを指します。
たとえば、夫婦のどちらかがセックスを望んでいるのに対し、もう一方がそれを拒み続けていた結果、夫婦関係が破綻してしまった場合などが該当します。
ただし、セックスレスの原因がそもそも自分自身にあった場合、婚姻を継続しがたい重大な事由として認められない可能性が高くなってしまいます。
以下に、どういうケースが該当するのかを書いておきますので参考にしてみてください。
- 乱暴なセックスを相手に望んだために嫌がられてしまっている
- 自身の浮気により、相手が自分に対して嫌悪感を抱いている
- 配偶者に対して家事育児などの負担を過剰に負わせてしまったために、相手が疲れてセックスに応じることが難しくなってしまった
なお、セックスレスが直接の離婚原因にはなっていない場合でも、夫婦が不仲になってかん系が破綻した結果、長期間の別居に至ってしまったというようなケースでは「婚姻を継続しがたい重大な事由」として認められることもあります。
セックスレスを理由とした離婚を回避することは可能なのか?
セックスレスという状況に悩むのは、往々にして「自分はしたいと思っているけれど叶わない状況」にいる側でしょう。
相手に相談しにくい問題ということもあって1人で抱え込んでしまうケースも多いため、夫婦の間に起こるさまざまな問題の中でも特に解決が難しい課題となってしまいがちです。
ですが、相手とのセックスを望んでいる以上は一人で抱え込んでいても問題はいつまで経っても解決しません。
また、相手が動き出してくれるのを待っても状況が変わることはないでしょう。
詳しいセックスレスの解消法については本記事の本筋ではないため記載はしませんが、同トピックに関連した書籍などを読んだり、すでに離婚に発展しそうな状況にいる場合は、離婚問題に長けた弁護士に相談してみるのも良いでしょう。
セックスレスが原因の離婚の場合、財産分与はどうなる?
セックスレスを理由に離婚した場合、財産分与については他の理由で離婚するケースと違いなどはあるのか、疑問に感じる人もいるのではないでしょうか。
財産分与とは、夫婦の婚姻期間中に協力して築き上げた財産を、離婚時に分与する制度のことを指します。
ですから当然、婚姻期間が長くなるほど分与しなければならない財産は多くなってきます。
離婚に際しては夫婦間にわだかまりがあることも少なくないので、相手に財産を渡したくないという気持ちも生まれやすく、財産分与で揉めるケースも往往にして起こり得ます。
しかしながら、原則として財産分与を拒否することはできません。たとえば夫婦一方のみに収入があり、婚姻期間中に築いた財産のほとんどがその稼ぎによって形成されたものであったとしてもです。
セックスレスが原因での離婚だったとしても上記のことは変わりませんから、相手に支払いを拒否された場合は弁護士を立てるなどして、原則として財産分与の拒否はできないことをわかってもらう必要があるでしょう。
セックスレスが原因の離婚の場合の慰謝料請求の可否と相場
セックスレスを理由に離婚したい場合、慰謝料の請求は可能なのか否か、可能な場合は慰謝料金額の相場はどれくらいなのでしょうか?
セックスレスを理由に離婚する場合、慰謝料請求できるケースとできないケースとがある
離婚時の慰謝料とは、たとえば不貞などの違法となる方法で夫婦関係を破綻に導いたり、相手に精神的な苦痛を負わせたことに対する慰謝を目的として支払われるものです。
セックスレスが原因で離婚する場合、慰謝料の請求が可能かどうかについては、有責行為があったか否かが争点となります。
慰謝料請求が可能なケース
セックスレスを原因とした離婚の場合、慰謝料の請求が可能となるケースは以下のとおりです。
- 夫婦のどちらかが、セックスができない特別な事由がないにも関わらず、相手とのセックスを一方的に拒絶している
- 夫婦のどちらかあるいは両者が不貞行為を行なっている
夫婦という間柄であっても、セックスは極めて個人的なものですし、望まない相手に強要することはできません。
ですから、慰謝料を請求するとしたら「セックスできるのにしない」という状況が前提にある必要があります。
なので、たとえばAVや風俗店を利用しているなど、セックスそのものに対しては積極的な姿勢が窺えるのに、配偶者とのセックスは拒んでいる、といったケースなどは、慰謝料を請求できる可能性が出てきます。
また、セックスレスの原因として、配偶者以外との性的行為、いわゆる浮気や不倫などが背景にある場合も少なくありません。
この場合、不貞自体が有責行為と認められるため、セックスレスにプラスして不貞行為に対しても慰謝料が認められることになるでしょう。
慰謝料請求が認められないケース
続いて、セックスレスが原因で離婚する場合に、慰謝料の請求が認められないケースについても見ていきましょう。
- 夫婦のどちらかが心理的・身体的な理由によってセックス自体ができない
- 夫婦双方ともにセックスを望んでいない
- 夫婦双方ともにセックスに対して非積極的
- セックスレスの程度が軽い
たとえば精神面での障害や、EDを始めとした身体的な事由によって、そもそもセックス自体ができない場合は「できるのにしない」という条件には該当しないため、慰謝料の請求が認められるのは難しいと考えた方がいいでしょう。
また、たとえばともに高齢になってくると自然とセックスしなくなる夫婦も多いですし、若い夫婦でも互いに疲れから双方がセックスを望まないケースもあるでしょう。
他にも、セックスしても良いと思っていたとしても、互いに積極的な行動に出ないケースも考えられます。
このように、セックスを求めたけれど拒まれた、という状況に当てはまらない場合、慰謝料請求は難しくなります。
最後に、セックスレスの期間が短かったり、間隔は開くものの時々はセックスできている状態の場合も、慰謝料の請求は難しくなります。
ひとつの目安ですが、おおむね1年以上セックスレスの期間があると、慰謝料請求の対象として認められるケースが多くなっているので、覚えておくと良いでしょう。
離婚時の慰謝料の相場は?
慰謝料の具体的な金額については、セックスレスという状況によって生まれた精神的・肉体的苦痛の大小によって決められることになりますが、平均すると100万円〜300万円程度が相場となるといわれています。
なお、以下のようなケースに当てはまる場合は慰謝料の金額が増額されることが多くなります。
- セックスレスの期間が年単位など長期に渡っている場合
- 激しい拒絶、暴言など、セックスを拒む際の態度が酷い
- セックスレスを解消するための努力が見られない
- 結婚後一度もセックスしていない
- 配偶者とのセックスは拒否するが浮気・不倫している
- セックスを拒まれている側が初婚
- 婚姻期間が長い
- 未成年の子供がいる
- 財産分与の金額などが低い
セックスレスとひと口に言っても内容や理由、経緯や程度などはそれぞれの夫婦ごとに異なってきます。
ですから、セックスレスであれば必ず慰謝料を請求できるわけではない、ということは覚えておきましょう。
セックスレスでの離婚を進めるなら準備が大切
セックスレスは、婚姻生活の継続が困難である重大な事由とはなり得ますが、立証することが難しい理由でもあるため、離婚を進めるのであれば証拠集めが重要となってきます。
こうしたケースでは、日記をつけておくことをオススメします。具体的には、配偶者にセックスを求めたけれど拒絶された日にちがわかるようにしておくことが大切です。
また、お互いの起床から仕事のために家を出る時間、就寝時間など、生活状況も合わせて記録しておくと、セックスできるタイミングがあったかどうかが見えやすくなります。
その他に配偶者に対してメールやメモなど、セックスを求めたけれど拒まれた、という経緯がわかるような証拠も残しておくことも重要です。
離婚まで考えているのであれば、長期間に渡ってセックスレスであることを証明するためには、こうした資料を積み重ねていくことが必要なのです。
最後に
今回はセックスレスを理由とした離婚に関して、財産分与や慰謝料についてを中心に紹介してきました。
セックスについてはデリケートな問題であるため、たとえ夫婦間であっても配偶者に対して相談しにくいと感じる人も多いかもしれません。
しかし、できれば離婚という事態を避けたいのであれば、まずは当事者間で話し合いができることが望ましいでしょう。
そしてどうしても離婚が避けられない状態となった時、本記事を参考に、離婚問題に強い弁護士に相談することをオススメします。
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